昨年の「令和2年7月豪雨」で被災し、人吉温泉~湯前間の全線が運休しているくま川鉄道について、11月下旬に一部区間の運行が再開される見通しとなった。再開予定区間は肥後西村~湯前間の19.0km(営業距離)で、全線24.8kmのうち約7割にあたる。

くま川鉄道の路線図(地理院地図を加工)

くま川鉄道は国鉄時代にバス転換が適当とされた湯前線を引き継ぎ、JR発足後の1989(平成元)年に開業した第三セクター鉄道。JR肥薩線の人吉駅と接続しており、くま川鉄道は起点となる駅を「人吉温泉駅」と案内している。終点は湯前駅で、人吉温泉~湯前間の所要時間は約45分。沿線に県立高校や公立病院があり、通学・生活路線だった。

くま川鉄道が全区間不通となった原因は、2020年に発生した「令和2年7月豪雨」だった。梅雨前線の停滞により、西日本から東日本にかけての広範囲で水害が起きた。熊本県と鹿児島県においても、土砂災害と河川氾濫が各所で発生。くま川鉄道では川村~肥後西村間の球磨川第4橋梁が流出した。ここは球磨川と川辺川の合流地点であり、鉄橋に大きな力がかかった。国の登録有形文化財に指定されていただけに、惜しむ声も多い。

さらに球磨川の下流に向けて多くの川が合流しており、人吉市は「令和2年7月豪雨」で過去最大級の浸水高を記録した。JR肥薩線の人吉駅、くま川鉄道の人吉温泉駅も浸水し、駅構内に大量の土砂が流入。くま川鉄道のディーゼルカーKT-500形も全5両が浸水し、床下機器がすべて水没する状態だった。鳥取県の若桜鉄道の技術者が応援に駆けつけ、このうち「KT-503」についてはエンジンの起動と走行が可能と発表されていた。

線路については、球磨川第4橋梁の東側にあたる肥後西村~湯前間の被害は軽微だった。しかし、KT-500形の全5両が人吉温泉駅構内で被災した上に、線路が分断されてしまったため、運行再開のめどが立たない状態だった。鉄道そのものの存続も危ぶまれたが、他の鉄道会社が被災支援切符やグッズ販売代行などで支援し、全国からも支援の声や寄付が集まった。

8月には、熊本県と沿線自治体が運行再開へ協議を開始し、国の「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業」の指定を受ける枠組みづくりに着手した。12月には「くま川鉄道再生協議会」が発足し、くま川鉄道と熊本県、球磨川流域10市町村が協議会メンバーとなった。上下分離の導入など、継続的な運行体制の確立について検討が続けられた。

今年5月、国土交通省はくま川鉄道再生協議会のとりまとめを評価し、「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業日補助金」の支給を決定。国が総費用の2分の1、地方自治体が2分の1を補助する。地方自治体の補助については、補助災害復旧事業債を充当し、元利償還金のうち95%は国が普通交付税として支給。実質的に国が復旧費用の97.5%を負担する。残りの2.5%は県と10市町村の負担割合を1対1とするところまで合意済みだ。

朝日新聞電子版の2021年10月16日付「11月下旬に部分再開見通し 熊本豪雨で被災のくま川鉄道」によると、10月15日の「くま川鉄道再生協議会」において、くま川鉄道から11月下旬の部分運行再開見通しが示されたとのこと。運行区間は肥後西村~湯前間。車両は3両を使用する。人吉駅からの車両輸送、保安設備の調整や試運転の後、運行ダイヤと運行再開日を決定する。協議会では全線復旧後10年間の持続的な運行計画も承認された。自治体による継続的支援は、地域住民の利用促進や観光需要の創出にも及ぶ。2019年度まで年間13万人だった一般旅客数を計画最終年度までに15万8,000人にする目標だという。

運行再開予定区間では、肥後西村駅付近に熊本県立球磨中央高等学校、あさぎり駅付近に熊本県立南稜高等学校があるほか、公立病院前駅付近に16診療科199床の救急対応総合病院と小中高一貫の県立球磨支援学校がある。部分開通のため鉄道のみで人吉温泉駅まで行けないものの、沿線の人々の通学・通勤については日常生活に近づいた。

観光面では、湯前駅付近に「湯前まんが美術館」、車で5分の施設「(グリーンパレス」内に湯前温泉がある。鉄道・旅行ファンにとっては、観光列車「田園シンフォニー」や縁起の良い駅名として知られるおかどめ幸福駅をはじめ、多良木駅付近に寝台特急の客車を使った宿泊施設「ブルートレインたらぎ」もある。鉄道の再開でこれらの施設にもにぎわいが戻るかもしれない。

ただし、NHKの報道によると、残る人吉温泉~肥後西村間は運行再開のめどが立たず、少なくとも3年はかかる見通しとのこと。JR肥薩線も人吉駅を含む八代~吉松間が不通となっており、再開の見通しは立っていない。

くま川鉄道の位置(地理院地図を加工)

熊本日日新聞電子版は2020年12月23日付で「三セク南阿蘇鉄道の豊肥線乗り入れ JR九州社長『可能』 熊本地震で被災」という記事を掲載した。同様に、くま川鉄道とJR肥薩線の乗入れも検討してほしい。熊本方面から人吉駅止まりだった観光列車を直通させれば、くま川鉄道も活気づくだろう。くま川鉄道の魅力が増せば、熊本駅・鹿児島中央駅から人吉方面のJR線も集客できる。くま川鉄道にとってもJR九州にとっても良い話だと思う。復旧計画と振興計画の進展に期待したい。

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くま川鉄道、11月下旬に肥後西村~湯前間運行再開へ – 全線の約7割

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