防衛省の発表によれば、北朝鮮(以後、北)は9月15日に、2発の弾道ミサイルを発射した。

飛翔距離は、750キロで最高高度は約50キロであった。また、飛翔軌道は、放物線の飛行後に再び上昇する軌道であった。

北の労働新聞(9月16日)によれば、鉄道機動ミサイル連隊が、鉄道(列車)移動ミサイルシステムから発射し、約800キロ飛翔して、目標に命中したとしている。

列車発射型は、旧ソ連時代にも開発されたので全く新しい発想ではない。また、難しい技術も必要ではない。

9月15日に発射したミサイルは、列車から発射したものと見てよいだろう。

新型短距離ミサイルの推進燃料を増量

今回発射されたミサイルは、これまでの短距離弾道ミサイルのイスカンデル版、ATACMS版、大型多連装ロケットの飛翔軌道と同じように、放物線を描いて、下降途中に再び上昇して目標に命中する「低軌道で変則」の軌道であった。

前回3月に2発のミサイルを発射し、パレードにも登場した新たなミサイルのうち、米国に影響が少ない短距離弾道ミサイル(以後、短距離ミサイル)の実験から開始した模様だ。

飛翔距離については、日本政府と韓国合同参謀本部とは、若干の誤差があるものの420〜450キロであり、高度は約60キロであった。

前回と今回の発射で分かったことがある。

3月に発射されたミサイルは、発射映像から、イスカンデル版を大型化した新型短距離弾道ミサイルだったので、700キロ以上の飛翔距離があってもいいはずだったが、420〜450キロであった。

今回のものは、2020年10月と今年の1月のパレードに登場したイスカンデル版を大型化したミサイルと思われるが、3月のものと同仕様であろう。

3月の発射では、米国を刺激しないように推進燃料を少なくして射程を短くした。

今回は、通常の750〜800キロを飛翔させるために、定量の推進燃料を入れて発射したと考えられる。

鉄道移動型発射に価値はない

北が公開した映像を見ると、列車がトンネルから出てきたところで、いったん停止して発射している。

ミサイルの後部に付いている操舵翼と本体の大きさの比率を見ると、イスカンデル版を全体的に大型化している。

ミサイルの先端部分の形状を見ると、詳細な映像が公開されていないので、イスカンデル版か新型短距離ミサイルかは判定しづらいが、イスカンデル版に似ているようだ。

この映像が本物か、合成かを考察すると、写真に不自然な部分がないことと、技術的にも可能なこと、さらに北がミサイルの発射地点を秘匿することを狙っていることから、実物か実物に近いと評価できる。

この映像を見た時、かつて、米国との冷戦時代の旧ソ連が、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を搭載し、列車移動し発射できる「SS-24Scalpel」を保有していたことを思い出した。

米国国防省が発刊していた「Soviet Military Power」に、発射のためにミサイルが起立している状況が描かれている。

北は、旧ソ連のSS-24の情報を得て、発想を真似て、製造したのだろう。

旧ソ連の場合は、ミサイルを列車で移動させると、大陸が広大であるので、発見が極めて困難になり、ミサイルが残存できる可能性が高くなる。

北のように国土が狭ければ、わざわざ列車移動型にしなくても、車両移動型で十分である。ミサイルを秘匿するという点では、あまり、価値も意味もないように思われる。

今回の発射の狙いは何か

・軍事技術面の考察:イスカンデル版を大型化したミサイルの2回目の実験であった。

今回、固体燃料を使った推進燃料を通常の状態まで増加して発射する性能確認を行ったと考えられる。

・作戦戦術面の考察:750〜800キロの射程であれば、佐世保基地を含む九州北部および岩国・呉基地含む中国地方が射程の範囲に入る。

朝鮮半島有事において、日本の前述の基地や港から発進する戦闘機や軍艦、日本と韓国間の兵站連絡線を主に狙うものであろう。

・射程による考察:北が開発した短距離ミサイルの中で最も射程が長いミサイルの実験であった。

ソウルなど軍事境界線から50キロ以内であれば、240ミリ多連装ロケット砲で狙える。韓国中部までは、超大型多連装ロケット砲およびATACMS版ミサイルで、韓国南部はイスカンデル版で狙える。

韓国南部から、九州北部や中国地方に所在する北が主に影響を受ける軍事基地や施設は、新型短距離ミサイルで射撃できる。

・対米交渉面の考察:

今年の3月のミサイルの飛翔距離は、420〜450キロであった。今回は、750〜800キロまで延伸した。

逐次、軌道を変更できるミサイルの実験を重ねているのは、米国と同盟国の日本、グアム、ハワイ、米国本土に到達できるミサイルの発射実験を行い、揺さぶりをかけ、米国とより有利な条件を引き出すことが狙いであろう。

今回の射撃では、北は、米国が焦って交渉に出てくるとは、想定していないだろう。北としては、現段階では、開発を優先していると見てよい。

各種ミサイル開発を継続しつつ米国を待つ

日本を狙うミサイルは、「スカッドC」、「ノドン」、「ムスダンミサイル」であった。

これらのミサイルは、弾頭部の搭載量が少ないことで核兵器の搭載が難しいこと、飛翔軌道が単純な放物線を描くためミサイル防衛により撃墜されやすい。

このことから、将来の開発において、これらのミサイルを改良して軌道変更できるものにするか、あるいは、新型短距離ミサイルの飛翔距離を伸ばしながら開発することになるであろう。

具体的には、イスカンデル版短距離ミサイル(射程1000キロ以下)の技術を取り入れて、射程を逐次増加させ発展させて、スカッドC、ノドン、ムスダン、「火星12号」、「火星14号」、「火星15号」と同じ射程を持つ、新たなミサイルを製造すると考えるべきだろう。

例えば、ノドンミサイルの代わりに、新型短距離ミサイルの技術を取り入れた、新たなミサイルを開発することなどだ。

また、固体燃料で、直径が大きく、搭載量が大きいミサイルを製造し、大型化した弾頭部に、個別誘導ができる子弾を搭載する。

さらに、潜水艦発射弾道ミサイルの北極星4号・5号の実験を行うだろう。

とはいえ、この大きさの弾道ミサイル潜水艦を製造するには、まだまだ時間がかかる。

中国の潜水艦発射弾道ミサイルJL2を2発搭載できる「清」級弾道ミサイル潜水艦を導入するかもしれない。

まだまだ先のことになるが、最終的には、ICBMに極超音速滑空体を搭載するようになる。

北は、これらを開発していく中で、米国がいずれ交渉のテーブルに着き、北に有利な条件で交渉が進むことを願っている。

交渉で求めるのは、韓国と平和協定を締結し、一刻も早く、米軍が韓国から撤退するように進めることだ。

しかし、交渉が進まなくても、中国の傘下に入っていれば、ジョー・バイデン政権は #ドナルド・トランプ 大統領とは異なり、直ちにミサイル攻撃をする可能性は低いと見ている。

北は現段階では、韓国に勝利できる兵器を開発することを優先していると思われる。

自衛隊のミサイル追跡能力に疑問

北の弾道ミサイル発射を受けた防衛大臣の記者会見内容を見て、追跡の欠陥から撃ち漏らす可能性があるのではないか疑問が生じた。

質疑応答の要約は以下のとおり

:当初の発表では、「EEZ内に落下していない」と推定されるという発表だった。それが、今回、「EEZ内」に変わったのには、どういった事情があったのか。見極めが難しい位置だったのか。

:発射を探知した直後の情報に基づくと、EEZ外に落下したものと推定された。その後、分析を進める中、変則軌道で飛翔したことが判明し、わが国のEEZ内に落下したものと推定された。

この質疑応答を読み取ると、当初、放物線の飛翔軌道から推測し、EEZの外に落下したと評価した。

その後の分析で、変則軌道で飛翔したことがわかった、ということである。

つまり、ミサイルが降下していたものが再び上昇した(変則軌道であったこと)ことが分からなかったということか。

今回は、ミサイルの飛翔が低軌道であり、落下地点も日本海の中部であるため、その追跡が難しいことは理解できる。

だが、低高度で飛翔してきたものが、軌道を変更すると、自衛隊はミサイルを見失う可能性があるという現実的な欠陥を暴露してしまったことにならないか。

大臣のこのような発言は、日本国民に対しては正直でいいのだが、中国や北には、ミサイル防衛能力の限界をうっかり漏らしてしまうことになった。

筆者:西村 金一

#防衛大 #ミス #ミサイル #防衛省


防衛大臣がうっかりミス、日本の探知能力の限界明かす

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