文=村井美樹 編集協力=西垣一葉(春燈社)

ソフトでゆるい鉄道好き

最近、「ローカル路線バスVS鉄道乗り継ぎ対決旅」(テレビ東京)というバラエティ番組によく出演させていただいています。バスチームと鉄道チームに分かれてどちらが早く目的地まで到着するかを競う企画で、私は鉄道チームのリーダー。勝利のために、つい過酷なルートを選んでしまい、列車に乗り遅れないように、鉄道チームの皆さんを叱咤激励して、毎回全力でゴールを目指しています。そんな勝ちに執念を燃やす私の姿から、気づけば「鬼軍曹」という異名で呼ばれるようになってしまいました(笑)。

でも、普段から「鬼軍曹」のような旅をしてる訳ではなく、本当はゆるい鉄道旅が大好きな「ソフ鉄」なのです。車両の細かな形式の違いやメカニカルな装置の部分など、鉄道の高度で専門的な知識はあまりないのですが、ローカル線に乗ってぼんやり揺られている時に無上の喜びを感じます。鉄道旅で出会う四季折々の風景やノスタルジックな旅情、レトロな駅舎や車両などに強く惹かれるのです。

じつは、放送ではカットされてしまうことも多いのですが、乗り継ぎ対決旅の途中でも、私の鉄道愛が炸裂してしまうことがしばしばあります。美しい車窓、魅力的な駅舎や車両に出会うと、つい心を奪われてしまう。そんなゆるいソフトな鉄道ファンの視点から、鉄道の楽しみ方をご紹介していきたいと思います。

原点となった学研都市線での逃避行

私が鉄道にはまった原点を振り返ると、高校時代の電車通学にあったのではと思い当たります。利用していたのは、学研都市線の愛称で親しまれているJR片町線。この路線は大阪府の京橋駅から京都府の木津駅までつながっています。

私は自宅方面の京橋駅から高校がある四条畷駅までの区間を利用していましたが、落ち込んでいる日やなんとなく気分が乗らない日の学校帰りには、四条畷駅から自宅とは反対の木津方面行きの電車に乗ることがありました。

この路線は、木津方面に向かうほどに次第にのどかな景色が広がっていきます。音楽を聴きながら車窓の風景を眺めて、夕日が沈んでいく様などを見ていると、落ち込んでいた気分が何となく楽になっていく。木津まで行って京都の空気を味わって戻ってくると、自然と癒されて元気になっている自分がいたのです。

手軽な逃避行とでもいうのでしょうか。私は鉄道というのは、どこか逃避的なところがあると思っています。都会では暮らすだけで情報量も過多で、知らず知らずのうちに澱のようにストレスが溜まっていく。鉄道旅でローカル線に乗っていると、それがどんどん洗い流されていく感覚があります。そういうところが鉄道の一番の魅力だと感じています。

鉄道旅の概念を変えた久留里線全駅下車の旅

大きな転機となったのは、『新・鉄子の旅』(ほあしかのこ著、小学館)という実録鉄道旅漫画に、私もレギュラーで登場させてもらったことです。日本全国全駅下車を達成した究極の鉄道マニアであるトラベルライターの横見浩彦さんが案内人となり、漫画家さんや編集者さんとともに、私もお供としてさまざまな鉄道旅を経験させていただきました。

なかでも強烈に印象に残っているのが、『新・鉄子の旅』の第1回目、千葉県・久留里線での旅です。この旅で横見さんが提案されたのは、1日で久留里線全駅下車というとんでもない企画。

全駅下車と聞くと、一駅一駅順番に降りていくことを想像する方が多いですよね。でも山手線のような列車の本数が多い路線ならまだしも、本数が少ないローカル線でこれをすると時間がかかり過ぎてしまい、1日では全駅下車を達成できません。そこで横見さんが取りだされたのが、なんと独自に組んだダイヤグラム(列車の運行表)。上りと下りの列車をうまく組み合わせ、上下線を行ったり来たりしながら下車することで、1日で全駅を制覇しようという計画です。さすが究極の乗り鉄!

しかし、これが予想をはるかに超えて、修行のように過酷な旅だったのです。残暑厳しい9月の猛暑日。太陽がジリジリと照りつけるなか、涼しい列車に乗っていられる時間はわずか5分程度。すぐに列車を降りて、周囲に何もない駅で猛暑に耐え、次の列車がくるまでただひたすら待つこと約50分。そんなことの繰り返しで、「いったい何のために・・・?」と当初はまったく意味が分かりませんでした。

ところが、夕方になって暑さが和らいできた時、心身ともに疲れ果てて下車した上総松丘駅で、はっとするような美しい景色に出会いました。太陽が柔らかなオレンジの光を放ち、キラキラと周囲の田園風景を照らして、なんともいえない美しさ。気づけば風も涼やかになり、心地よい虫の声が聞こえてきました。

冷静に考えれば普通の田舎の風景なのですが、さっきまでのうだるような景色がガラっと一変したように見えたのです。苦労したからこそ手に入ったご褒美のような景色。始発駅から終着駅までただ列車に乗っているだけでは味わえない達成感。「何の変哲もない景色がこんなにきれいに見えるなんて! こういう旅も悪くないな」と、妙にはまっている自分がそこにいました。鉄道旅の概念が大きく変わった瞬間でした。

さて、そういう旅を続けていくうちにすっかり鉄道好きになっていった私ですが、ソフ鉄の視点で全駅下車をするなら、まずは都電荒川線(東京さくらトラム)のような本数の多い路面電車から試してみるといいかも。のんびりと下町を走る都電の姿に、都内にいながら旅情を感じられます。フリーきっぷを使って街々を散策しながら、気軽な鉄道旅気分を味わえますよ。そして全駅下車の極意として重要になるのが季節ですが、真夏の猛暑日はあまりおすすめしません・・・(笑)。

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筆者:村井 美樹

#猛暑 #ソフト #言葉 #車両


乗り鉄の過酷すぎる猛暑の大冒険!?「全駅下車旅」の極意

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