大手キャリアが5Gのエリア展開を加速させている。NTTドコモは、衛星との干渉問題が起きない4.5GHz帯を中心に、出力を上げたマクロ局を展開。基地局数は、6月末時点で1万を突破した。対するKDDIやソフトバンクは、5G用の新周波数帯は3.7GHz帯が中心で、マクロでの調整が難しい一方で、4Gから5Gに転用した周波数帯を使い、エリア展開を加速している。
そんな中、KDDIは東京の山手線全30駅および大阪の大阪環状線全19駅のホームに5Gの基地局を設置。同社は、利用者の導線に沿った5Gのエリア化を行っており、人口カバー率が90%に達する2021年度末までには、関東21路線、関西5路線に5Gを拡大していく予定だ。ここでは、大手3社のエリア展開の方針を振り返りつつ、鉄道を中心に5Gのエリア化を進めるKDDIの狙いに迫る。
●サービスインから1年、周波数転用も始まり急速に広がる5Gエリア
サービス開始から1年がたち、大手3社は5Gのエリアを急速に拡大している。2021年度末(2022年3月)にはドコモが人口カバー率約55%、KDDIとソフトバンクは人口カバー率90%を達成する予定。現時点でも5Gがスポット的にしか利用できなかったサービス開始当初と比べ、徐々に“面”としてのエリアができつつある。実際、東京でのエリアマップを見てみると、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社とも、主要な駅を中心にしながら、繁華街やオフィス街を広い範囲でカバーできるようになりつつあることが分かる。
ただし、エリア拡大の手法はキャリアによって少々異なっている。5G用に割り当てられた新周波数帯を使い、「瞬速5G」をうたうのがドコモだ。同社は、2020年夏から出力を上げたマクロ局の運用を開始。その数が徐々に増え、都市部ではエリアの面展開ができつつある。
マクロ局を展開する上で有利に働いているのが、衛星との干渉が少ない4.5GHz帯(n79)だ。3社とも5G用の周波数帯として3.7GHz帯(n77/n79)が割り当てられているが、衛星との干渉調整が必要になる。エリアをまとめて広げれば広げるほど、干渉が起りやすくなるため、地道なチューニングが必要になるというわけだ。ドコモが新周波数帯にこだわり、「瞬速」をうたう理由もここにある。こうした周波数戦略が功を奏し、6月28日には5Gの基地局が1万局に達した。
KDDIやソフトバンクも、3.7GHz帯のエリアは拡大しているものの、干渉対策には時間がかかっているという。KDDIエンジニアリング モバイル設計本部 エリア設計部の加藤純人氏によると、KDDIではアンテナの取り付け方を変えて微妙に傾けたり、電波を出す方向を変えたりして干渉を回避しているという。「距離感で言うと、数十キロの施設が影響することもある」(KDDIのパーソナル事業本部 パーソナル企画統括本部 次世代ビジネス企画部 部長の長谷川渡氏)というだけに、チューニングにはかなりの時間を要する。
そのため、4.5GHz帯を持たないKDDIやソフトバンクは、5Gのエリア拡大には4Gから5Gへの周波数転用を活用する。KDDIは700MHz帯(n28)と3.5GHz帯(n78)を5Gに転用済み、ソフトバンクは700MHz帯と3.5GHz帯に加え、1.7GHz帯(n3)も5G化している。3.5GHz帯の周波数特性はSub-6のそれに近い一方で、いわゆるプラチナバンドに近い700MHz帯や、既存の基地局が多い1.7GHz帯はエリアを広げやすい。転用した周波数帯で面展開しつつ、スループットを必要とするエリアにはピンポイントで3.7GHz帯やミリ波を導入していくのが、2社に共通した戦略だ。
実際、東京の都心部では、大手3キャリアの回線を使っていると、アンテナピクトの横に「5G」の文字を目にする機会は増えている。特に周波数転用でエリアを広げているKDDIやソフトバンクは、その頻度が高い。上記のエリアマップの広さを見ても、2社は周波数転用を活用していないドコモを大きく上回る。ほぼどこでもつながる4Gにはまだまだ及んでいないものの、サービス開始から1年かけ、着実にエリアを広げていることが伺える。
●「鉄道路線5G化」を打ち出したKDDIの狙い
こうした状況の中、KDDIが打ち出したのが「鉄道路線5G化」宣言だ。先に述べた通り、6月30日には東京の山手線全駅と、大阪の大阪環状線全駅のホームで5Gが利用できるようになった。3.7GHz帯で出力も弱いため、ホームの端や電車内などではつかまない可能性もあるが、ラッシュ時などにスループットが落ちる駅のホームは5Gへのニーズも高そうだ。駅のホームや改札回りにターゲットを絞ってエリア化し、それをアピールする狙いもここにある。長谷川氏は、「(基地局の)数も重要な指標ではあるが、“この場所”で5Gの通信が使えるということを意識してやらせていただいた」と語る。
KDDIでは、まず代表的な2路線として上記の山手線と大阪環状線をエリア化。続いて、駅間を5Gのエリアにしつつ、2021年度末までに関東21路線、関西5路線へ5Gを拡大していく方針だ。一方で、ホーム上のエリアはピンポイントになっているため、「エリアマップだけでは、一般のお客さまがどこで使えるのかがなかなか分からない」(長谷川氏)。こうした状況を解決するため、ホームや改札など、どこで5Gに接続できるかをより詳細に示したマップも公開した。
マップ以外でエリアを“見える化”する取り組みとしては、5G接続時限定のコンテンツを活用する。スヌーピーが現実の風景に重なって表示され、一緒に写真や動画を撮れるAR(拡張現実)のコンテンツを用意した。5Gならではの高速通信を生かし、「ここまで高精細なオブジェクトが動くのかと思われるほど、3Dのクオリティーが格段に上がっている」(長谷川氏)という。
KDDIはiPhone 12シリーズ導入時に「au 5Gエクスペリエンス」を開始した。これは、5G接続時かつデータ無制限プラン加入時のみ、動画やFaceTimeの画質を上げたり、特別なコンテンツにアクセスできたりする仕掛けだ。スヌーピーのARコンテンツは、データ無制限プランでなくても利用できるが、スループットの数値ではなく体験価値を重視したという意味では、au 5Gエクスペリエンスの延長線上にある取り組みといえる。
駅ホームのエリア化には、5G用に割り当てられた3.7GHz帯に加え、4Gから転用した3.5GHz帯も活用している。3.5GHz帯は転用ではあるものの、バンド番号が3.7GHz帯と同じn78になっていることからも分かる通り、周波数特性は新周波数帯のそれに近い。速度が4Gと変わらないため“なんちゃって5G”と揶揄(やゆ)されることもある転用5Gだが、「3.5GHz帯は40MHz幅あるので、局数をしっかり入れていけば、お客さまがご利用になられているアプリに対しては十分な速度になる」(長谷川氏)。
また、「わずか0.2GHzの差だが、他事業者への干渉の影響はまったく違い、3.7GHz帯の方が圧倒的に(エリア展開が)難しい」(加藤氏)のは大きな違いだ。干渉調整をしながらピンポイントで3.7GHz帯を導入しつつ、ホームをカバーしてスループットを上げるには、3.5GHz帯がうってつけの周波数帯と言えそうだ。2020年12月に3.5GHz帯の周波数転用を開始したことが、駅ホームのエリア化を加速したとみていいだろう。
KDDIは人口カバー率を2021年度末までに90%まで引き上げる予定だが、現状の4G並みにどこでも5Gにつながるようになるには、まだ時間がかかる。また、エリアが広がっても、帯域幅の広い新周波数帯や3.5GHz帯から転用した5Gがどこでも使えるようになるわけではない。「鉄道路線5G化」のように、ユーザーの導線に合わせてエリア化し、それを分かりやすく伝えていく取り組みは、今後さらに重要性が増していきそうだ。
●体験重視の姿勢でパケ止まり対策でも先行、地道なチューニングが差を生む
ユーザーの体験や体感を重視するのは、通信品質の改善にも共通した姿勢といえる。それを端的に示しているのが、“パケ止まり”への対応だ。パケ止まりとは、5Gのエリアの端で発生する、通信不能状態のこと。エリアが狭く、4Gのようにセル同士が重なり合っていないがゆえに起こる現象で、4月ごろからSNSを中心に「5Gなのに通信ができない」といった不満の声を見かけるようになった。
中でも、ahamoの開始による5Gユーザーの急増や、エリアの拡大が重なったドコモの名前が挙げられるケースは多い。こうした指摘を受け、ドコモはユーザーに対し、一時的に5Gをオフにするよう促しつつ、6月末までに基地局のパラメーターを調整。もともとは5G接続時に、5Gの周波数を優先してデータ通信していたが、電波強度が弱い場所では5Gに接続したまま4G側にデータを流すよう、ネットワークにチューニングを施した。
NSA(ノンスタンドアロン)の5Gは、まずアンカーバンドと呼ばれる4Gに接続したあと、5Gの周波数帯を追加。その際には、EN-DC(E-UTRA New Radio Dual Connectivity)と呼ばれる技術で、キャリアアグリゲーションのように4Gと5Gを束ねて通信する。このEN-DCでつながっている4Gにデータを流すようにしたのが、ドコモの取った対策だ。
対するKDDIは、試験環境や日本より早く5Gを商用化した海外での事例をもとに、パケ止まり対策をエリア拡大に先立って導入していた。KDDI 技術統括本部 エンジニアリング推進本部 エリア品質管理部 通信品質強化Gの小野田倫之氏は「5Gのエリアを最大化しつつ、基地局のパラメーターを最適化している」と語る。パケ止まり対策の技術的な内容はドコモとほぼ同じだが、事前にそれを察知して基地局の設定に反映させていたのは、KDDIならではといえる。
「基地局の近くに(ユーザーが)いる場合は5Gで快適に通信できる一方で、基地局から遠い場合は、切断直前まで5Gを引っ張ってしまう。エリアは広くなるが、パケ止まりのリスクは高くなる」(小野氏)のは3社とも同じだが、そのバランスを取る設定を事前にしていたため、auの5Gでは目立ったパケ止まりによるトラブルが発生していないという。
パケ止まり対策はエリア展開やスループット、料金プランのような目立った指標がないため見逃されがちだが、ユーザーの印象を大きく左右する。パラメーターの最適化には地道な調査や作業が必要で時間もかかるだけに、先行して対策に着手できたKDDIのアドバンテージは大きくなりそうだ。

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「鉄道路線5G化」で5Gエリアを急速に広げるKDDI “パケ止まり”対策でも先行

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