鉄道と野生動物の衝突による輸送障害の発生が全国的に後を絶たない。静岡県東部から山梨県にかけての山間部を走るJR身延線は近年、シカの生息域の拡大や個体数の増加に伴う列車との衝突に頭を抱えている。シカの命を守りながら、安全な運行ができないか——。JR東海の現場の社員が発案し、シカと列車の衝突を減らすことを目指す新たな取り組みとは。【深野麟之介】

JR身延駅(山梨県身延町)から南に2キロほど進んだ線路沿い。列車が通過する1分ほど前になると、線路周辺に「キィキィ」という甲高い音が鳴り始めた。列車が通り過ぎると同時に音はやむ。公益財団法人・鉄道総合技術研究所が開発した「忌避音」だ。シカが仲間に危険を知らせるときの「警戒声」とシカが嫌う犬の鳴き声を混ぜ合わせ、シカを線路から遠ざけることが狙いだという。

身延線は2019年11月から山梨県内の2区間で「忌避音装置」を試験的に導入。提案したのが、JR東海身延保線区の社員、森田嵩章(たかあき)さん(25)だ。多発する衝突の解決策を模索する中、忌避音の存在を知った。人に危険を知らせる列車接近警報装置を活用し、音源のみを忌避音に変えることを発案した。列車が接近したときにだけ音が鳴るのでシカの「音慣れ」を防ぐことができる。

身延線はこれまでも、シカとの衝突を減らそうとさまざまな対策を講じてきた。運転士をはじめとする現場の社員にヒアリングを実施。09年から衝突の件数が多い6区間は、運行に気づいたシカが逃げられるように、夜間に列車の速度を最大で25キロ、落として走らせている。12年から衝突が多い地点に高さ2メートルほどの侵入防止柵も設置。しかし、それでも、シカとの衝突は増え続けていた……。

シカとの衝突で現場の社員が最も苦労する作業が「事後処理」だ。発生時は横たわったシカを人力で線路外に搬出。一時的に保存し、焼却処分場に運ぶ。身延保線区長の酒井通孝さん(44)は「夜の山間部での発生が多く、社員が現場に向かうこと自体が難しい。個体は100キロと重く、搬出も一苦労」と話す。森田さんも「シカの損傷が激しいと、社員の精神的なダメージも大きい」と吐露する。

忌避音装置が設置された区間の衝突の件数は、現時点で「ゼロ」。一定の成果が上がっている。身延線内はほかにも、全国の路線に先駆けて、21年3月に三角形の凹凸状と網目状の2種類の侵入防止バリケードを線路上に設置。「シカがどちらをより嫌がるか」を検証する取り組みなども進めている。森田さんは「シカの命を守りつつ、鉄道の安全輸送も守りたい」と決意を語った。

輸送障害、10年で3倍

国土交通省が年度ごとに公表する「鉄軌道輸送の安全に関わる情報」によると、2019年度の動物による輸送障害(列車の運休、旅客列車の30分以上の遅延など)は821件。10年度からの10年間は右肩上がりとなっている。また、JR東海によると、身延線内の20年度のシカと列車の衝突は196件、10年度の58件から3倍以上に増えた。

衝突の増加は、温暖化による積雪量の減少で冬場に餌を見つけやすくなったことによる個体数の増加▽生息域の拡大▽狩猟者の減少▽過疎化で生息適地である耕作放棄地の拡大——などと複数の要因があるとされる。JR東海が線路沿いに設置したカメラに、シカがレールをなめる様子が映っており、鉄分を摂取するために線路内に入っている可能性もあるという。

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シカと列車の衝突防げ JR東海が忌避音装置 導入区間で発生ゼロ

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