作家、クリエイターが描く世界が、現実の未来の姿を予言したかのようになってしまうことがある。いまや親と子、二世代で楽しむ家族も少なくないといわれる人気シリーズの名探偵コナンでは、現実より少しオーバースペックな鉄道がたびたび登場してきた。ライターの小川裕夫氏が、荒唐無稽と見過ごせないコナン作品における鉄道のスピードについて、レポートする。

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人気マンガ「名探偵コナン」の劇場版最新作『名探偵コナン 緋色の弾丸』が公開された。昨年、新型コロナウイルスの影響により公開が延期された。待ちに待った新作だけに、ファンの期待は高まっている。

名探偵コナンではこれまで、最新の技術や知見が積極的に取り入れられてきたが、鉄道関連でも興味深いものがいくつも登場してきた。最新の劇場版でも、東京〜名古屋間で建設が進められている中央リニア新幹線を彷彿とさせる真空超電導リニアが登場して事件に大きく関わるほか、真空超電導リニアの駅として新名古屋駅もお目見えする。

現在、新名古屋駅は存在しないが、名古屋鉄道の名鉄名古屋駅が2005年まで新名古屋駅を名乗っていた。そうした所縁もあり、名古屋鉄道は愛知県江南市に所在する江南駅を一時的に「名探偵コナン駅(江南駅)」に改称。コナンの世界観に合わせた装飾も施す。

「コナンとのコラボは、4月14日から6月30日の期間で実施します。江南駅西口の駅名看板をコナン駅と掛け替え、コナンのイラストも合わせて描きます。また、ホームに設置される駅名看板、駅構内にある旧きっぷ売り場の壁面にもキャラクターを描きます」と話すのは、名古屋鉄道広報部の担当者だ。

江南駅には西口と東口があり、西口は市の中心部へとつながる出入り口でもある。そのため、多くの乗降客が西口を利用することになるので、コナン駅への意匠チェンジは注目を集めることになるだろう。

そうした取り組みとともに、名鉄は名古屋駅と直結する名鉄百貨店前の待ち合わせスポット・巨大マネキンの「ナナちゃん人形」を名探偵コナンのキャラクター「赤井秀一」の衣装へと衣替えさせる。名古屋の名所だけに、これも話題になるだろう。

一方、リニアの運行主体となるJR東海はコナンとコラボする気配がない。JR東海広報部東京広報室の担当者は言う。

「同作は昨年に公開される予定でしたが、その直前まで弊社も作中にリニアが登場することを知りませんでした。そのため、特にコラボする話は出ていません。今後も、映画とコラボする予定はありません」

今回、JR東海はコナンとコラボしていないが、2018年から放送を開始したアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン THE ANIMATION』では全面的に制作を協力。シンカリオンは2019年に劇場版が公開され、今年4月9日からは新シリーズ『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』が始まっている。

名探偵コナンでは、あくまで架空の世界であることを示すために現実と微妙に異なる名称を様々なものに使用しているが、シンカリオンシリーズでは逆に、実在する新幹線の名前がそのままロボット名に使われているという事情の違いがあるのかもしれない。

近年、鉄道会社がアニメやドラマとコラボする機会は増え、世間的にも大きな影響力を発揮するようになった。そうした中でも、コナンは国民的人気が高く、なにより鉄道と親和性が高い作品でもある。

1997年に公開されたコナンの劇場版第一作『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』は東都鉄道の環状線が事件の舞台として設定されていた。明確に東都鉄道がどこに所在するのかは描かれていないが、芝浜貨物駅や沢袋駅といった東京をイメージさせるモノが多く出てくる。こうした点から、東都鉄道の環状線が山手線をモデルにしていることが推測できる。

東都鉄道の環状線に仕掛けられた爆弾は、電車が時速60キロメートル未満にスピードダウンすると爆発することになっており、鉄道会社は爆発を避けるためノンストップで電車を走らせ続けることになった。

山手線の表定速度は30〜35キロメートル。表定速度とは駅の停車時間なども含んだ平均時速のことだが、仮に駅に停車しないノンストップ運行でも時速60キロメートル以上で走り続けることは不可能に近い。

大阪にも大阪環状線があり、こちらの表定速度は時速20キロメートル前後と言われている。こうした鉄道の運行体制を見ても、犯人の要求「時速60キロメートルで走り続ける」が、いかに非現実的であるかがわかるだろう。これは、あくまでアニメの設定。しかし、物語として非現実的な設定は娯楽として古くから楽しまれており、鉄道映画だけに限っても『新幹線大爆破』(1975年)や、黒澤明が原案の『暴走機関車』(1985年)などがある。ありえない出来事に直面したときに、人間がとる言動はドラマティックなものとなる。

『名探偵コナン 緋色の弾丸』に登場する真空超電導リニアも、時速1000キロメートルで走行する設定になっている。JR東海が試験運転している中央リニアは「実験線では時速603キロメートルの記録はありますが、対外的には時速500キロメートルで運行と説明しています」(前同)つまり、コナンの真空超電導リニアは現実のリニアより2倍のスピードで走っている。

コナンこと江戸川コナンをはじめとして、今回の劇場版でも主要人物として登場するFBI捜査官・赤井秀一などは超人とも思える技能・才能を持つ。そのほか、コナンの登場人物には超人的な人物がたくさん登場する。 鉄道においても現実世界を超越しているが、コナンの世界を現実が上回った部分もある。コナンは1994年から連載を開始。現在まで25年以上の長きにわたって人気になっているマンガだが、作中の時間は半年から1年しか経過していないといわれる。

だが、常に最新の技術を取り入れており、当初は折り畳み式の携帯を使っていた主人公たちが、いまやスマホを使っている。逆に、夢のツールとして登場したはずの阿笠博士が作った「犯人追跡眼鏡」はスマートグラスの、ターボエンジン付きスケートボードは電動キックボードなどの登場で、必ずしも非現実的ではなくなった。手の届きそうな存在になっている。鉄道についても、同じようなことが起きないとも限らない。

国土交通省は、2016年に東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会で「速達性の向上の現状と今後の取組のあり方」について議論している。小委員会で配布された資料には、2000年と2015年における通勤時間帯における所要時間の短縮例が記載され、具体的に「柳川駅→新宿駅」「すずかけ台駅→押上駅」「大宮駅→横浜駅」の3つが例示されている。

例示されたケースは6〜11分の時間短縮を実現しているが、国土交通省はその要因を表定速度が向上できたことと分析。国土交通省は、今後の課題としてさらなる表定速度の向上に努めると報告書を結んでいる。こうした議論の流れを見ても、コナンで描かれた時速60キロメートルで走り続ける環状線の電車を非現実的と一笑に付すわけにいかない。

未来の鉄道がコナンの世界に追いつく。そして、追い越す──そんな日が、少しずつ迫っている。

#探偵 #名探偵コナン #国交省 #速達


『名探偵コナン』と鉄道の浅からぬ関係 国交省は速達性向上を真剣に検討

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