NPO法人「江の川鐵道」は、廃線となった三江線の一部区間で、「廃線後初! 県境の絶景鉄橋を渡る! 三江線ノスタルジックレールパーク体験」と題した県境越えトロッコ運行イベントを開催している。「江の川鐵道」はこれまで、島根県邑南(おおなん)町内の旧宇都井駅付近と旧口羽駅付近で活動していた。今回は両駅間に挟まる広島県三次市のNPO法人「伊賀和志江の川鐵道」も参加し、初めて県境の鉄橋をコースに組み込んだ。

三江線の廃線跡。県境の第4江川橋梁

イベントは2月13~14日、2月19~23日の計7日間開催され、1日4回の運行。1運行あたりの定員は6名で予約制。1月20日に参加者の募集を開始し、2月12日までに全便満席となっている。

■「鉄道がなくなっても地域がなくなるわけではない!」

三江線は広島県北部の三次駅と日本海沿岸の江津駅を結ぶ全長108.1kmのローカル線だった。水運が盛んな江の川に沿って建設され、大正から昭和にかけて江津側、三次側から建設された。将来は芸備線や福塩線と組み合わせて、山陰と山陽を結ぶ路線として期待されていた。しかし、戦時下で延伸工事は進まず、戦後も開業済みの区間は赤字。全通前から廃止が検討された。

1975(昭和50)年に江津~三次間が全通したとき、すでにモータリゼーションが進み、赤字路線になった。国鉄が赤字路線を整理したときには、周辺道路が未整備だったため、廃止を免れた。しかし、国鉄から路線を引き継いだJR西日本にとって最大の赤字路線であり、たびたび廃止が論議され、ついに2018年3月31日をもって運行終了。廃止となった。全長100km超の路線廃止は全国ニュースで取り上げられるほど話題になった。

赤丸がイベント実施地点(地理院地図)

晩年は江の川に沿う車窓風景のすばらしさに加え、地上20mの高架駅だった宇都井駅が「天空の駅」などと呼ばれ、観光客が訪れた。JR西日本の廃止方針が報じられ、地元自治体の存続への取組み、廃止論議が起きるたびに観光客から注目された。

沿線自治体は廃線後の跡地活用について検討するも、老朽化した設備の維持、撤去費用の問題で進展していない。その中で、名所だった宇都井駅の地元で、三江線を利用した観光事業を始めたいという気運が高まった。「鉄道がなくなっても地域がなくなるわけではない!」との決意で、2018年に「江の川鐵道」が設立された。

赤線が今回のトロッコ運行経路、青線が目標ルート(地理院地図を加工)

地元自治体の邑南町は、「江の川鐵道」の活動を受け止め、三江線跡地を観光の目玉にすべく取り組む方針を定めた。町内の宇都井駅とその周辺、口羽駅とその周辺の線路用地をJR西日本から譲り受けた。跡地は鉄道記念公園にする計画で、事業の中心となる組織として「江の川鐵道」を指名した。

■観光庁「あたらしいツーリズム」が後押し

宇都井駅周辺と口羽駅周辺の線路は合計約2.4km。そう聞くと、両駅を結んでトロッコ列車を走らせたくなる。ところが、この付近は蛇行する江の川が島根県・広島県の県境となっており、宇都井駅と口羽駅に挟まれた伊賀和志駅は広島県三次市の駅だった。そのため、伊賀和志駅のある三次市や広島県などの理解を得られなければ、県境を越えてトロッコ列車を運行することができない。加えて、宇都井~口羽間に2カ所ある鉄橋はJR西日本が保有したままだったため、こちらも許諾が必要になる。「江の川鐵道」は電動トロッコを運行していたが、鉄橋を渡ることはできず、鉄橋手前で折り返していた。

2019年、伊賀和志駅周辺の人々も三江線の観光利用のために立ち上がり、「伊賀和志江の川鐵道」が発足。「江の川鐵道」と連携し、将来的に廃線後の沿線地域が一体となった「三江線ノスタルジックレールパーク」の実現をめざすことになった。今回の県境越えトロッコ運行が、両団体による最初のイベントとなる。

この企画は観光庁が公募した観光客誘致の実証事業「あたらしいツーリズム」に申請され、「三江線ノスタルジックレールパーク創出プロジェクト」として2020年11月に採択された。「あたらしいツーリズム」は、新型コロナウイルス感染症による生活様式の変化にともない、国内外の観光客が安心して観光を楽しめるように、安全・安心な旅のスタイルを普及・定着させる目的がある。感染拡大予防ガイドラインの遵守や新しい生活様式の実践を前提として、地方公共団体や観光地域づくり法人など地域の関係者の取組みを支援する。「あたらしいツーリズム」採択を受けて、邑南町とJR西日本は正式に第4江川橋梁(伊賀和志~口羽間)の使用契約を結んだ。

県境越えトロッコ運行イベントは、広島県三次市の国道375号沿いにある「川の駅常清」に集合し、送迎バスで口羽駅へ。ここから電動トロッコに乗り、廃線となった三江線を走行する。第2口羽トンネル内で大型トロッコに乗り換え、県境をまたぐ高さ20m、長さ230mの第4江川橋梁を渡り、景色を楽しむ。

トンネル内のプロジェクター調整の様子
高千穂あまてらす鉄道が無償提供した大型トロッコ車両
川の幸と山の幸でランチ

鉄橋を渡るための大型トロッコ車両は、宮崎県で廃線観光を手がける高千穂あまてらす鉄道から先代主力車両の無償提供を受けた。トンネル内ではプロジェクションマッピングによる光と音の演出も用意されている。今回のツアーで「川の駅常清」の「江の川の味ランチ」も提供。天然鮎と地元の野菜をふんだんに使ったメニューだという。料金は乗車と食事のセットで大人3,000円、小学生以上は2,000円となる。

■宇都井~口羽間のトロッコ運行、さらなる延伸にも期待

三江線の廃線活用については、宇都井駅のライトアップなどが地方紙で報じられ、ネット上でも配信されて伝わっていた。県境越えトロッコ運行は、それまで邑南町内に限定されていた活動が、三次市側と連携したことに大きな意味がある。今回のトロッコ運行は鉄橋までで、三次市側のレールを走っていないが、三次市側も線路をJR西日本から譲受すれば、口羽駅から伊賀和志駅・宇都井駅までの直通運行も可能になる。2回も江の川を渡り、「天空の駅」に到達できる。かなり魅力的な廃線観光地になると思う。

さらに希望するなら、トロッコ路線を三次駅へ近づけて、既存の鉄道アクセスと連携できるとうれしい。「川の駅常清」は三次駅からバスで45分とのこと。車のほうが便利と思われるが、全国から観光客を集めるならひと工夫ほしい。鉄道が無理ならオープントップバスでも良いかもしれない。三江線の全線108.1kmの観光化はハードルが高いものの、景勝区間のみ復活させ、他の区間はバスや川船で連絡するという手段も考えられる。

NPO法人「江の川鐵道」のスタッフの皆さん

筆者が今回のイベントを知ったときには予約満席。次回が待ち遠しいし、今回のイベントをきっかけに、大きく育ってほしい。実を言うと、筆者はかつて三江線の列車に乗った際、宇都井駅の前後で車内のトイレに入ってしまい、沿線の景色を見ることができず後悔した。まずはトロッコ運行の宇都井延伸に期待している。

#鉄道路線の廃止 #JR西日本


三江線の廃線活用に新展開、県境の鉄橋を越えるトロッコ運行

関連記事

JR東日本「空間自在ワークプレイス」実験「新幹線オフィス」も予定

東武鉄道、社有林の間伐材で作ったベンチを沿線の希望者に寄贈へ

東武鉄道「スペーシア」デビュー当時のリバイバルカラー車両が登場

京急電鉄、1000形新造車両を新たに3編成 – 2021年度の設備投資計画

近鉄、7/3ダイヤ変更 – 最終列車繰上げ、本数・区間の見直しなど

JR中野駅新北口駅前エリア拠点施設整備事業、2028年度内竣工めざす