今回のコロナ禍では、マスクやトイレットペーパーが一時的に品薄になったことを除けば、モノが供給されずに困ったケースは少なかった。物流は、ほぼ通常通りに動いたのだ。

物流というとトラック輸送を思い浮かべるが、近年ドライバーの減少により、そのシェアは低下している。また、二酸化炭素排出量の多いトラックより、環境面で優れている鉄道や船による輸送を選ぶ荷主も増えている。こうした輸送手段の転換を「モーダルシフト」と呼び、その動きは近年拡大している。中でも一度に大量に、定時輸送ができる貨物鉄道を再評価する機運は急速に高まっている。

今から33年前の国鉄の分割民営化当時、貨物部門のみを受け持つことになった日本貨物鉄道(JR貨物)は、「いずれ潰れる会社」と見られていた。

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事実、民営化当初こそ黒字スタートだったが、その後は厳しい経営を強いられ、貨物駅跡地の再開発で得られる不動産収入に頼る状況が続いた。しかし、ここに来てモーダルシフトが進む中、本来の物流事業が再び脚光を浴び始める。JR貨物では鉄道事業部門が黒字転換を果たし、念願の株式上場も視野に入ってきた。

貨物列車はいつ走っている?

その割に、首都圏に住んでいると貨物列車を見かけない。じつは現代の貨物列車の多くは夜間に走っている。理由は大きく2つ。荷主側に「夜出して朝届く」というニーズが高いこと、もう1つは、大都市圏の通勤・通学時間帯は頻繁に行き交う旅客列車による過密ダイヤのため、貨物列車が走る余裕がないことがある。

昼間集めた荷物をコンテナに収め、夜までにトラックで貨物駅に運び込む。コンテナごと列車に載せると、列車は夜遅くに出発し、翌朝目的地近くの駅に着く。ここで再びトラックに載せ替え、午前中にはそれぞれの荷受先に届く——というのが一般的な流れだ。

従来のように全行程をトラックが担当すると、コンテナの数だけトラックとドライバーが必要になり、ドライバーは長時間の運転を余儀なくされる。高齢化が進む日本で、この労働形態を継続するには限界がある。

その点、貨物鉄道ならたった1人の運転士が、最大で10トントラック65台分の貨物を、長距離にわたって運ぶことが可能だ。他にも貨物鉄道のCO2排出量はトラックの11分の1とエコの面でも優れている。こうした点が評価され、貨物鉄道に追い風が吹き始めていた。

そして、私たちが貨物輸送の重要性に気づかされた事件が近年、2度起きた。

貨物輸送の重要性を感じた出来事は…

1つは2年前、西日本を中心に大水害を引き起こした「平成30年7月豪雨」だ。被災したJR山陽本線では数カ所で線路が流され、100日間にわたって不通になった。JR貨物にとって関西と九州を結ぶ山陽本線は大動脈。

ここを走る貨物列車は上下合わせて1日に54本に上る。JR貨物では、モノの流れを継続させるための必死の取り組みが行われた。不通区間をトラック・船に代替するルートを確保するとともに、列車を迂回運転して輸送した。

普段は貨物列車が走らない山陰本線を臨時列車が走る姿は新聞やテレビのニュースなどでも報じられ、話題にもなった。

こうした努力をもってしても、輸送量は通常の3割弱にとどまり、不通区間の沿線では、スーパーやコンビニなどで生鮮食料品や総菜などの商品に欠品が目立った。日常身の回りにあるものの多くが貨物列車によって運ばれていることを、消費者は知ることになったのだ。

そして今回のコロナ禍だ。

輸出入を始め経済活動が停止し、自動車や家電製品などの部品の輸送量が大きく落ち込む中で、輸送量を維持したものがある。農産物だ。玉ねぎやジャガイモなどの輸送量に減少はなく、例年通りこれらを運ぶ専用列車が走った。

また、冷凍食品などの食料品も落ち込みはなかった。人は外出しなくても、食べることをやめるわけではない。巣ごもりに入った日本人の食生活を、実は貨物列車が支えていたのだ。

もう1つ、堅調に推移したのが「宅配便」だ。宅配便の荷物は「特別積合せ貨物」と呼ばれ、1つのコンテナに混載されて運ばれる。多くの人が巣ごもり生活を送る中でEコマースの需要が高まり、宅配便の輸送量が増えた。その物流の中心的な役割を貨物鉄道が担ったのだ。

JR貨物の真貝康一社長は言う。

「物流が異常事態発生時において機能を発揮し続けなくてはならない社会的使命を担っていることを改めて痛感した。一方で、これからの時代、地球環境の保全のための低炭素社会構築、働き方改革や労働力不足への対応など、国家的課題からも貨物鉄道の社会的使命は高まっていく。

期待に応えるには鉄道網の強靱化が不可欠であり、そのために他のモードと連携し、物流全体として、自然災害や感染症に対して強いプラットフォームを作っていかなければならない」

ヨーロッパでは、貨物鉄道が幹線物流を担い、その両端(荷主・荷受先と貨物駅の間)をトラックが担当する、という物流の連携を国家戦略として打ち出し、貨物鉄道網の強靱化を図っている。

日本はこれまで交通インフラとして、高速道路網の整備などに多大な予算を投じ、クルマ社会を実現してきたが、災害時の物流確保に向けて、公共事業である鉄道、とりわけ在来線の強靱化を真剣に考える時期に来ていることは確かだ。

未来の物流に必要なものとは

貨物列車が走る在来線はJR旅客鉄道会社や第三セクターが所有しているが、北海道をはじめ、地方ではその維持が困難になってきている。山陽本線の災害からもわかるように、線路はつながっていることで価値を生み、人々の生活が守られる。そのことを、いま一度考える時期に来ているのだ。

在来線の強靱化を図る一方で、「新幹線による貨物輸送」も、真剣に考える必要がある。明治時代に建設が始まった在来線と異なり、新幹線の設計は災害に強い。これを貨物輸送に利用することで、大量の貨物の安定的な高速輸送が実現する。人流と物流のバランスがとれた新幹線の共同利用の推進は、相次ぐ災害に見舞われる日本の物流を守るうえでも重要な課題といえるだろう。

(長田 昭二/文春ムック 文藝春秋オピニオン 2021年の論点100)

#復活 #物流 #トラック #コロナ禍


“貨物鉄道”はなぜ復活した? 異常事態の中でも揺るがない強さとは

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