赤字が続く近江鉄道(本社・滋賀県彦根市)の存続形態を巡り、県や沿線10市町でつくる法定協議会(会長・三日月大造知事)は17日、2024年度から鉄道の運行体制を公有民営の「上下分離」方式に移行すると決めた。財政負担の割合は県と沿線市町で1対1とすることも決まったが、市町の負担割合を巡っては議論が紛糾し継続審議となった。【村瀬優子】

近江鉄道の鉄道事業は、利用客の減少を背景に1994年度から26年連続で赤字を計上。「企業努力による事業継続は困難」とする同社の要請を受け、昨年11月に法定協議会が発足した。今年3月に全線の存続を決め、現行の「近江鉄道活性化計画」が21年度に終了するのに伴い、22年度からの新体制移行を目指していた。

17日に東近江市内で開かれた第5回会合では、「鉄道の維持存続に向けた責任を明確にでき、持続的な運行体制を構築できる」などとして、上下分離への移行を決定。国の手厚い財政支援が受けられることや、自治体は鉄道事業者として安全管理責任を負うことを確認した。21〜23年度は利用促進に取り組む運営改善の期間とし、22年度をめどに施設管理団体を設立するとした。団体の形態などの詳細については今後詰めるという。

上下分離前の22〜23年度にも県と市町で近江鉄道の設備投資費や修繕費を負担することで合意した。各年度で6億4000万円程度が必要になる見通し。上下分離後の負担金額は現時点で試算が難しいとして示さなかった。

各市町の負担割合は、駅数と営業距離、住民定期利用者数の3指標を基に配分する案を提示。負担割合の高い順に、東近江市41・33%▽彦根市17・81%▽甲賀市11・71%▽近江八幡市7・63%▽日野町6・05%▽愛荘町4・29%▽豊郷町3・13%▽甲良町2・95%▽多賀町2・62%▽米原市2・48%——とした。

しかし、米原市の平尾道雄市長が「既に市の負担でレールなどの整備を行い、修繕が必要ない区間がある。営業距離から差し引くべきだ」として反対。三日月知事や他市の首長が「そうした事情も考慮したつもりだ」などと理解を求めたが、合意に至らず、再度検討することになった。

終了後、報道陣の取材に応じた三日月知事は「市町によって事情が異なり、どう調整したら同じ方向に進んでいけるかが今後の課題。鉄道施設をしっかりと維持管理し、災害時にも備えていきたい」と話した。

災害時、復旧費軽減に利点

10市町を走る鉄道が上下分離するケースは全国的にも珍しく、今後は意思決定の迅速化などが課題になる。

愛知川橋りょうなど、築100年を超える橋が七つあり、災害などで損壊すれば、巨額の修繕費が必要となる可能性がある。上下分離は自治体が施設の維持管理費を負担し続けることになるため、導入には覚悟が必要だ。

2013年4月に上下分離した信楽高原鉄道(SKR)は同年9月、台風で築80年の鉄橋の一部が流され、約1年全面運休した。巨額の復旧費が見込まれ、廃線も取り沙汰されたが、上下分離で鉄道事業者になっていた市に国の補助が適用された。被災自治体が公共施設の復旧に利用できる災害復旧事業債を活用し、市負担分の95%が地方交付税で補塡(ほてん)された。

県によると、SKRのケースは近江鉄道にも適用される見通しという。SKRの正木仙治郎社長(甲賀市副市長)は「財政的に苦しい地方鉄道は、災害時に復旧費が捻出できず廃線になる恐れがある。上下分離するメリットは大きい」と話す。ただ、費用負担を巡って各自治体で利害が一致しない懸念はある。SKRの場合、「合併前の旧町時代だったら復旧に時間がかかり、鉄道離れが起きたかもしれない」との指摘もあり、今後設立される施設管理団体で、どのような意思決定の仕組みを作るかが注目される。

近江鉄道は第三セクターのSKRとは違い、大手私鉄「西武鉄道」が親会社の民間会社だ。「鉄道事業以外では黒字が続いてきた会社に税金を投入するのか」との批判もある。上下分離したからといって利用客が増えるわけではない。地元住民らと連携して一層の利用促進を図り、「地域に必要な鉄道だ」という県民の理解を得なければならない。

上下分離方式

鉄道会社は運行(上)に専念し、自治体などが鉄道施設(下)を保有・維持管理する方式。レールや駅舎などの維持管理費を自治体が負担することで、鉄道会社の資産保有に伴う費用負担を軽減する。国交省によると、若桜鉄道(鳥取県)や養老鉄道(岐阜県)など、全国で11の鉄道が公有民営で導入している。県内では2013年に甲賀市の信楽高原鉄道が導入し、黒字経営に転換した。

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赤字続く滋賀・近江鉄道 24年度から上下分離方式に移行 財政負担は審議継続

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