大船~湘南江の島間(6.6km)を結ぶ湘南モノレールは、今年7月2日に全線開通50周年を迎える。同社は2015年5月、それまで株式の大半を保有してきた三菱グループから、みちのりホールディングス(以下「みちのりHD」)に株式譲渡され、経営体制が一新された。

大船~湘南江の島間全通の前日に、西鎌倉駅で執り行われた出発式(提供:湘南モノレール)

一方、同社の沿線エリア(鎌倉市深沢地区)に隣接する藤沢市村岡地区には、今年2月、神奈川県、藤沢市、鎌倉市、JR東日本の4者により、JR東海道線「村岡新駅」(仮称、2032年開業予定)の設置が合意されるに至った。湘南モノレールを取り巻く経営環境・沿線環境は大きく変化しつつある。

次の50年に向けてのスタートを切るにあたり、どのようなビジョンを打ち出していくのか。ポストコロナ期に向けての施策・経営課題等について、同社代表取締役社長の尾渡英生氏に話を聞いた。

■江の島&大船の魅力発信、新たなビジネスフィールド開拓も

――尾渡社長は、みちのりHDへの経営移行後の2015年10月に社長に就任され、ICカード「PASMO」導入や、湘南江の島駅のバリアフリー化など、大きな投資を立て続けに行ってきました。一連の施策の効果として、どのような業績見通しを立てておられますか。

我々は、単年度のPL(損益計算書)ベースではなく、キャッシュフローベースで事業を考えなければなりません。しかも、耐用年数が40年ほどの駅舎更新なども考慮しなければならないことから、50年を1クールと見据えて現在の投資の適否を判断する必要があります。その際、ベストシナリオでもワーストシナリオでもなく、アベレージのシナリオをきちんと描けることが、経営者に求められるのではないかと考えます。

湘南モノレール代表取締役社長の尾渡英生氏

おかげさまで一連の施策実施により、年度別輸送人員ベースで見ますと、2015年度の1,031万1,763人から2019年度の1,120万5,925人へと堅調な伸びを示していました。しかし、現在は、他の運輸各社と同様にコロナ禍の影響を大きく受けており、ポストコロナ期に向けて、どのように需要回復を図っていくかが課題となっています。


――ポストコロナ期を見据え、具体的にはどのような施策を進めていきますか。

私が社長に就任した6年前に、最も大きな経営課題であった「PASMO」導入(2018年4月)と湘南江の島駅のバリアフリー化(2018年12月)が終わり、あとは湘南深沢駅、目白山下駅のバリアフリー化が済めば、お客様の利便性向上という面でのハードウェアの改善作業は、いったん完了します。今後はポストコロナ期に向けての新たな需要創出の施策として、沿線にお住まいの皆様の外出を促進し、観光客の皆様をどのように我々の沿線に呼び込み、収入を上げていくかというソフト面の改善が、大きな仕事になってきます。

バリアフリー化工事が完了し、リニューアルオープンした湘南江の島駅(提供:湘南モノレール)

例を挙げると、これまで江の島に関しては、新江ノ島水族館とタイアップしてお得なきっぷを販売するようなことはうまくいっていますが、湘南江の島駅から江の島に至る洲鼻通り商店街の魅力はまだまだ十分に発信できていません。

また、大船は活気ある商店街や飲食店をはじめ、大船観音寺、フラワーセンターなどさまざまな魅力のある街ですが、現状、タイアップが不十分です。当社がお手伝いして、大船の魅力が十分に発信され、より多くのお客様が大船に立ち寄っていただけるようになれば、「江の島へはモノレールで」という流れが生まれると思います。

さらに、雇用を維持しつつ、会社を成長させていくためには新しいビジネスフィールドを開拓することも必要になってきます。この点においては旅行業への進出を考えています。みちのりグループ各社は、福島交通が福島交通観光という旅行会社を持っているように、旅行業も営んでいます。みちのりグループの中心である北関東・東北の人々にとって、湘南というエリアは魅力的な旅行先だと思いますし、北関東・東北は言うまでもなく観光資源が豊富です。当社も旅行業に進出し、互いに連携して相手の沿線にお客様を送り込めるような商品を開発すれば、おのずとシナジー効果が出てくると思います。

みちのりグループ(提供 : みちのりホールディングス)

――湘南モノレールの将来の業績に大きな影響を与える要素として、村岡(国鉄湘南貨物駅跡地、約8.6ha)・深沢(JR鎌倉総合車両センター跡地等、約31.1ha)両エリアの開発がありますね。

現在、鎌倉市で検討が進められているビジョンによれば、2028年度をめどに鎌倉市役所が深沢エリアに移転し、行政サービスが開始されるとともに、「ウェルネス」をまちづくりのテーマとして、周辺の街区が一体的に開発され、商業施設、医療・福祉施設、都市型住宅等を設ける計画になっています。

このエリアに大規模な施設や住宅などが建設されれば、モノレール利用者が激増し、現在の当社大船駅や湘南深沢駅ではホーム等のキャパシティーが足りなくなるのは目に見えています。駅の増改築など、さらなる投資が必要になるでしょう。また、我々は交通事業者として、村岡・深沢エリアの中を移動する交通手段、もしくはその交通情報を提供するなど、なにかしらの役割を果たすことが求められるかもしれません。

深沢地域整備事業区域と周辺の状況(2020年3月鎌倉市資料より)
深沢地域整備事業土地利用計画案(2020年3月鎌倉市資料より)

こうしたことにしっかりと対応していくためにも、私どもはなお一層、企業体質を強化しておくことが求められます。

――村岡・深沢エリアにはどのような発展を望みますか。

まず、村岡・深沢に出現する近未来都市での人々の「Mobility」(移動手段)が、一体どのようなものになるのかを想像すると、楽しくなってきます。参考になるのが、2020年1月にトヨタ自動車が発表し、2021年2月に地鎮祭が実施された「Woven City(ウーブン・シティ ※)」です。この構想では、都市の街路は用途に応じて、「(1)車道」「(2)スピードの遅いパーソナルモビリティや歩行者の通る道」「(3)歩行者専用の遊歩道」の3つに分類されるそうです。車道では「e-Palette」(トヨタの次世代EV)等の完全自動運転かつゼロエミッション(二酸化炭素を排出しない)車両が走行し、物の輸送は地下に張り巡らされる配送網を活用した全自動システムに委ねるとしています。

このような近未来都市が村岡・深沢エリアに現出し、湘南モノレールが最先端の「Mobility」の一部として機能している、そんな未来が実現したら素晴らしいですね。

(※)「Woven City(ウーブン・シティ)」は静岡県裾野市に建設予定。さまざまなパートナー企業や研究者と連携しながら、自動運転、MaaS(Mobility as a Service)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる街にする計画。

なお、ここからは村岡・深沢エリアの活用方法に関して、私が心に思い描いていることを申し上げるにすぎませんが、村岡新駅付近に、現在工事中の「横浜環状南線(圏央道)」の支線をつないで、羽田空港、横浜港、都心と高速道路で直結させてはどうでしょうか。そして、新駅の周りに大型駐車場とホテルを建設すれば、一大交通・観光ハブになりえます。まさに現代ヨーロッパの陸海空の輸送モードを兼ね備えた主要観光都市の姿です。

車をここに駐車して、村岡新駅から東京・横浜や富士山エリアに向けて東海道線に乗り換えれば、関東圏内の観光に非常に便利です。また、十分な数の宿泊施設を用意すれば、日帰り観光地の鎌倉・藤沢を宿泊観光地に変え、神奈川県ヘルスイノベーション観光の一大拠点が生まれるはずです。さらに、大型駐車場の一部を大規模レンタカー施設とすれば、交通観光ハブ機能をさらに高めることができるのではないでしょうか。

加えて、村岡新駅と当社の湘南深沢駅をBRT(バス高速輸送システム)等で結び、湘南深沢駅前の交通広場から鎌倉市内各方面へのバスを発着させれば、両市に跨るパークアンドライド機能を果たし、鎌倉や江の島におけるオーバーツーリズム問題の緩和にもつながると思います。

■グローバルな基準の会社経営、ローカルな視点のサービスがより重要に

――今後、取り組むべき経営課題としては、他にどのようなものがありますか。

これは、どの企業にも共通することですが、企業は、やはり人であり、技術やノウハウを持った社員こそが財産ということになります。少子高齢化が進む中、人がいないために事業が継続できない企業が出てきているのが、いまのこの国の現実です。当社においても、5年後、10年後を見据えたときに、いまと同じ質の仕事ができる組織が維持できているよう、そのしくみをいまのうちに確立しておかなければなりません。

その意味で、まず必要なのが技術の継承です。我々の鉄道施設の点検・修繕作業の中には10年、20年スパンというものが相当数あります。たとえば、今日の点検で見つかった不具合と同じ事象が、前回いつ起きたか、どのような補修を行ったかを遡って調べようとすると10年前だったりする。また、25年ごとに更新というような電気設備もあります。いままで、こういった作業の記録は先輩から後輩へ紙ベースで引き継がれてきましたが、これをデータベース化し、後から容易に利活用できるようなしくみを構築しています。

点検車による夜間点検作業(提供 : 湘南モノレール)

また、夜間の点検作業は、社員がタブレットを持ち、撮影した写真や記録をすぐにデータベースに反映できるよう、仕事のやり方を変えました。

――最後に、尾渡社長が会社を経営していく上で、大切にしている視点などありましたら教えてください。

私が大切にしていきたいと思っているのが、グローバルな視野でお客様を見つつ、ローカルな視点で行動する「グローカル」という考え方です。交通事業者として、グローバルな基準で会社経営し、モノレールを運行しつつ、一方で山・坂の多い当社沿線の地域で、より便利にモノレールをご利用いただくためには、どのようなサービスが必要になるのかといったローカルな視点が、今後はより重要になると思っています。

大船~湘南江の島間の全通時、片瀬山トンネルを抜けて湘南江の島駅に進入する300形(提供 : 湘南モノレール)
大船~湘南江の島間の全通時、目白山下駅付近を走行する300形(提供 : 湘南モノレール)

具体的には、我々が第一になすべきことはモノレールの駅から駅へお客様を安全にお運びすることであることは間違いありませんが、高齢者のお客様がご自宅から当社の最寄り駅まで安全に移動できているのか、駅から行きつけの病院まで快適に移動できているのかというようなことにも、我々はもっと意識を向ける必要があります。今後の高齢化社会においては、このファーストワンマイル・ラストワンマイルの移動をどのようにご提供するのかということがきわめて重要な課題になります。これを意識することがモノレール事業のサービス向上に貢献するだけでなく、将来の新たなビジネスの芽を見つけることにもつながります。

#電車 #モノレール


JR村岡新駅の影響は? 50周年の湘南モノレール、社長に展望を聞く

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