銚子電鉄が制作、公開中の映画『電車を止めるな!』を拝見した。正直に言う。おもしろかった。低予算B級映画として、B級らしさという意味でも上出来、後半はじんわりと涙する場面もある。制作者が社名にひっかけて「超C級(銚子級)」と自虐したけれど、それはダジャレを言いたかっただけの謙遜だ。

 

鑑賞券は銚子電鉄の1日乗車券付き。かなりおトクだ
 

 

鉄道映画という狭い分野に閉じ込めてはいけない

タイトルをあやかった『カメラを止めるな!』のように大爆笑という展開ではないし、某鬼退治アニメのように涙が溢れるほどではない。それでも物語はしっかりしているし、配役は舞台で活躍する実力派を揃えた。主役の銚子電鉄社長、蔵本勝介役はコウガシノブ。舞台で古賀司照の名で活動する個性派俳優だ。乗客の中心人物「心霊アイドル めむたん」役は末永百合恵。ドラマ『 #特捜9 』にたびたび登場した。

有名人としては #中田敦彦#オリエンタルラジオ )、日野日出志(怪奇漫画家)が友情出演。日野は銚子電鉄のお菓子「まずい棒」のキャラクター「まずえもん」を手がけている。スペシャルゲストとして片岡馨( #プリティ長嶋 )が出演する。片岡は千葉県議会議員の3期目を務めており、本作と銚子電鉄を応援しているという。

鉄道ファンとしては、鉄道ファンで知られる女優の村井美樹、鉄旅タレントの #木村裕子 の出演も見どころの1つ。ローカル鉄道演劇『銚電スリーナイン』に出演した谷口礼子、千田剛士も登場する。谷口は蔵本社長の妻という重要な役どころ、千田は今作も銚子電鉄の社員役を好演する。

『電車を止めるな!』は鉄道を前面に押し立てた映画だけれど、いままで銚子電鉄を知らなかった人も「千葉県銚子市のご当地映画」として楽しめる作品だ。鉄道映画という狭い分野に閉じ込めてはいけない。B級作品も含めて映画好きな人、とくにタイトルをあやかった『カメラを止めるな!』を楽しめた人に、ぜひ観てもらいたい。

冒頭3分を無料公開

『電車を止めるな!』を観るために必要な最低限の知識は、映画の冒頭部分に集約される。大胆にもネットで短縮版が無料公開されている。

銚子電鉄の社長、蔵本勝介の講演会だ。まずは「電車屋なのに自転車操業」とギャグを飛ばして観客を注目させる。講演は、過去と現在の写真を比較し、経営がどんどんマズくなっているという内容だ。笑いを取りつつも悲壮感が漂う。実際の銚子電鉄も経営努力が足りないわけではない。経営不振の背景はモータリゼーションと少子高齢化、地方鉄道のほとんどが直面する問題だ。

社長が「当社はいまや食品会社」と語る

そこで銚子電鉄は平成7年に地元の名物「ぬれ煎餅」の販売を開始した。これも実話で、ぬれ煎餅は同社通販サイトで「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」と正直な宣伝文句を載せたところ、伝説の巨大掲示板「2ちゃんねる」でバズった。メディアにも取り上げられ、現在は同社の売上の7割はぬれ煎餅になった。後発商品の「まずい棒」も累計200万本越えのヒット商品となっている。

社長が「当社はいまや食品会社」と語る。これもネタではなくて事実らしい。企業調査会社のデータベースには、鉄道会社ではなく米菓製造会社として登録されているという。講演の締めくくりに、映画制作の動機が語られる。老朽化した変電所の修繕費として約2億円が必要だ。そのための秘策が『映画』制作だ。この続きは本編で……となる。

観客側に銚子電鉄の本物の社長、竹本勝紀も出演している。セリフもなく、竹本の顔を知らないと解らない。しかし、銚子電鉄と竹本の奮闘ぶりはテレビの情報番組やビジネス誌などでもたびたび採り上げられている。彼はほかの場面にも出てくる。知る人ぞ知る仕掛けだ。見つけたら嬉しくなる。

線路は単線なのに映画は伏線たっぷり

実は、本作にはこのような仕掛け、伏線がたっぷり仕込まれている。タイトルをオマージュした『カメラを止めるな!』は、伏線をちりばめて見事に回収していくスタイルが心地よかった。『電車を止めるな!』の伏線はちょっとわかりにくいけれどネタは多い。線路は単線なのに映画は伏線たっぷり。これも竹本社長がトークショーで語った自虐ネタ。

たとえば公式サイトのトップに表示され、ポスターとしても使われたメインビジュアル。ここから仕掛けは始まっている。分かりやすいところはサブタイトルの「〜のろいの6.4km〜」だ。原作の小説では「呪いの」と漢字。映画はひらがな。電車の速度が遅い「のろい」の意味も掛けたから。6.4kmの短い路線で、列車の速度が遅いから。お得意の自虐ネタのひとつ。

もうひとつを書いてしまったらネタバレになってしまう。鑑賞後、もういちどメインビジュアルを観よう。「ああ、そういうことだったんだ」と感動がよみがえるはずだ。これは笑うところではなく、じんわりと感動するところだ。本作がネタ映画、自虐ギャグ映画で片付けられない理由が、このメインビジュアルに仕掛けられている。

鑑賞後にもうひとつ。銚子電鉄の通販サイトにアクセスしよう。ある新商品を見て感動がよみがえるはず。しかしふと我に返って「もしかして、これを売るための映画だったのか」という疑念もわく。感動を返せ。ま、銚子電鉄だからしょうがないか。

あの映画にあやかって映画を作ろう

ネタばらしにならない程度に映画を紹介する。銚子電鉄では乗客減に悩む中、さらに不自然な乗客減少傾向があった。もともと少ないけれども、異常な現象だ。それはどうやら心霊現象によるもので、沿線でも「電車に乗るのが怖い」とウワサになっているという。

しかし、銚子電鉄はすでに経営の修羅場を何度も潜り抜けており、もう怖いものはない。社長の蔵本は心霊現象を逆手に取り「生放送で深夜に幽霊電車を走らせる」という企画をテレビ局に売り込もうとした。「テレビを観た人が怖いもの見たさでわんさかやってくるはずだ」と。しかしテレビ局では却下。むしろネット配信向きではないかとアドバイスされた。鉄道オタク、心霊オタクにウケるはず。蔵本もすっかりその気になる。

電車は午前3時に犬吠駅を発車し、仲ノ町駅で折り返して終点の外川駅まで走る。本物の霊の登場はさすがに期待できない。そこで蔵本は秘策として霊媒師の広瀬じゅず、地元銚子の高校生シンガーで特別銚子観光大使のHINA(本人役)を呼ぶ。ネット配信役は鉄道アイドル木村裕子から、ファンの谷川亮太を紹介された。そこに心霊現象好きのアイドル「めむたん」、怪談師の簑毛よだつなどが参加した。

ヤラセではないかと眉をひそめる女子社員、乗務したくないとごねる運転士。ほかの社員からは「社長は乗らないでくれ」と懇願される。前年のお化け列車がシャレにならないほど怖く、ゾンビ役の社長に非難が集中したのだった。しぶしぶ社員の進言に従う蔵本は、会社への思い、鉄道への思いを若手社員に託す。ここはとても良いセリフだ。

「これだけは忘れないでくれ。俺たちは日本一のエンタメ鉄道を目ざすんだ。(略)それが地域への恩返しであり、ローカル鉄道の使命なんだ。(略)銚電はいつもふざけたことをしていると言われるけれど、俺たちは真剣にふざけている。(略)目的は1つ。鉄道を存続させることだ。(略)たとえ古びた傷だらけの電車でも、そこに無限の可能性を信じて前進を続けること以外、俺たちの生きる道はない」

長いセリフを略したけど、ぜひ本編で聞いてほしい。

映画好きがニヤニヤするオマージュの連発

かくして心霊列車は発車した。ところが目立ちたがりの乗客ばかりで配信はドタバタ。ネットでは早々に炎上してしまう。話題性としてはこれも成果だろうか。ところが、しだいに予測も付かない現象が起き始める。蔵本は事態を収拾しようと奔走するが、これは社員たちがナイショで仕掛けたサプライズイベントか、それとも本物の……?

運転でもトラブルが起きて、列車は暴走する。このままでは終点で脱線してしまう。あれ、おかしいな。『電車を止めるな!』というタイトルなのに「電車を止めろ、止めてくれ」という展開だ。『新幹線大爆破』『大陸横断超特急』『アンストッパブル』など、鉄道映画の名作へのオマージュに変貌した。たった6.4kmで、この定番的な展開をやるとは……のろいからできるわけだ。

後半は、原作小説「電車を止めるな!〜呪いの6.4km〜」とまったく異なる展開になった。映画本編全体は大胆にも、ブルース・ウィリス主演の某ハリウッド作品のオマージュだ。私は中盤のある場面ですぐに気がついたけれど、これはたまげた。そして笑った。

『電車を止めるな!』は『カメラを止めるな!』の成功にあやかって制作された。タイトルと「ホラー映像作品を作る」という主題が同じ。物語はまったく違うけれども、随所にちりばめた伏線がある点は共通した面白さ。初めて観るときは、ひとつひとつのシーンを見届けよう。伏線を確認するために、もう一度観たくなってしまうところも似ている。

ホラーコメディ映画にピッタリの上映会場も

似ていないところは予算と興行成績だ。『カメラを止めるな!』が制作予算300万円で、2018年の興収が年間31億円を突破した。それをヒントに「500万円を集めたら作れそうだ」と安易な発想でクラウドファンディングに成功したけれど、実際には2000万円かかった。足りない分のうち800万円は協賛金を募り、竹本社長自ら700万円の持ち出しとなった。『カメラを止めるな!』が300万円でできた理由は、それだけの知識と研鑽があったからだ。誰でもマネできる作り方ではない。

初速の遅さは似ている。『カメラを止めるな!』は当初は映画イベントで6日間の上映で、単独上映は2館からスタート。口コミで人気が拡大して全国ロードショーへと上り詰めた。『電車を止めるな!』はいまのところ上映館が少ない。飲食店や公共施設の会議室などだ。ユニークなところでは千葉県いすみ市の葬祭場(11月3日)もある。ホラーコメディ映画にピッタリ、というか雰囲気ありすぎだ。

劇場初公開は9月26日の高田世界館だった。現存する日本最古の映画館とのこと。竹本社長と懇意のえちごトキめき鉄道の鳥塚社長が働きかけたという。上映後に両社長のトークショーがあって、伏線の解説や撮影秘話なども語られた。

銚子電鉄はいままで、「オマージュかパクりか」というギリギリのセンで「まずい棒」「バナナカステラ」を販売し、売上を伸ばしていた。最近ではアイスキャンディの企画がシャレにならない理由でボツになった。そんな銚子電鉄が、超有名なB級映画にそっくりなタイトルの映画を作った。どうせまたネタ映画だろうと思ったら、実は真面目に取り組んだ映画だった。

上映映画館は現在も募集中。観たい人々の要望に応えて、少しずつ上映場所も増え、全国に広がっている。そろそろ配給会社に参加してもらい、全国ロードショーにしたい。鬼退治アニメ映画で儲かった映画館さん、この映画を応援していただけませんか。『電車を止めるな!』の勢いを止めるな!

(文中敬称略)、写真=杉山淳一

(杉山 淳一)

#銚子電鉄 #電車 #ホラー映画 #社名


銚子電鉄制作、ホラー映画(?)『電車を止めるな!』が意外にも感動作だった

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